2018年度 活動レポート 第171号:産業技術総合研究所

2018年度活動レポート(一般公募コース)第171号

中国環境汚染対策研究に従事する若手研究者育成のための共同研究

産業技術総合研究所からの報告

南京大学博士課程研究員10名を2018年11月5日より14日まで受け入れ、中国環境汚染対策研究に従事する若手研究者育成のための共同研究を行いました。

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PM2.5捕集実験 筑波山を背景にして

2010年以前には日本よりかなり遅れていた中国環境分析技術も、潤沢な研究予算と優秀な国際的人材育成により、現在では日本の国立分析機関と同等の技術力を獲得するに至りましたが、今後10年間で世界トップレベルの科学技術立国に成長することが中国国家戦略となっています。先進科学技術の手本としての日本の国際的存在意義は縮小していますが、水俣病やダイオキシン汚染など環境汚染先進国である日本が過去半世紀培ってきた環境汚染対策科学技術は、深刻な環境汚染が進行する現在の中国が喉から手がでるほど切望する技術・ソフトパワーです。

2017年に締結された南京大学と産総研との共同研究契約において、特に技術移転を希望されたのは、世界初のペルフルオロアルキル化合物(PFASs)国際標準分析規格であるISO25101等、世界をリードする高精度・高感度国際標準分析技術です。PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)に代表されるPFASsは、ストックホルム条約において緊急に国際的対応が必要とされている有害物質です。

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ISO国際標準分析法指導1

世界中で年間300報を超えるPFASs研究報告があるにもかかわらず、産総研が開発したISO25101を超える高感度分析技術は現在でも存在しません。従来のルーチン分析ではなく、基礎分析化学とトレーサビリティを有する、高度な精度管理(QAQC)とISO25101、現在開発最終段階となっている新ISO規格ISO21675を用いることで、一般分析機関では不可能なレベルでの高感度分析が可能となります。最新技術がたやすく劣化コピーされる中国への科学技術移転のむずかしさは周知のことですが、単なる製造技術・基礎科学ではなく、ISO国際標準規格に準じた高度なQAQCというソフトパワーは、十分な教育と人材育成なしでは中国でもコピーは困難です。

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ISO国際標準分析法指導2

上の観点から、受け入れ研究者が国際的リーダーとして活動するISO国際標準研究や中国・インド起源PM2.5研究を学生に指導し、「なぜ国際標準が必要なのか?」「高精度分析技術の本質とは」等、一般研究者も気が付いていない原理・論理的精度管理概念について、両国の若手研究者の理解を得ることに成功しました。特にインドから受け入れている学生との共同実験等、日中だけではなく、日本、中国、インドの異なる文化圏での協力体制について、今後の世界情勢も反映する、アジア科学圏協力のお手本となる国際連携も確立できました。

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PM2.5精密秤量実験

さらに、先のダイオキシン国際会議における両機関の共同研究発表内容について、受け入れ研究者の特別集中講義を行い、結果として博士課程進学希望者の増加につながりました。(https://staff.aist.go.jp/nob.yamashita/dioxin2018.html)

また本事業の波及効果として、産総研受け入れ担当若手研究者が香港城市大学副理事長、厦門大学理事長他が統括する中国環境汚染対策研究国家重点組織の主要メンバーとしてして正式に採用されました。これについて中国科学アカデミーの競争的研究予算の獲得も達成し、ISOアジア国際標準規格の創出と合わせて今後の日中科学技術研究協力の大きな柱となる事が期待できます。

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