2017年度 活動レポート 第177号:農研機構食品研究部門

2017年度活動レポート(一般公募コース)第177号

アジアの若者が、食品安全に関する科学技術を体験する

農研機構食品研究部門 稲津康弘さんからの報告

1992年以降、「GMS地域(メコン川流域諸国5カ国+中国南部2省)の統合・繁栄・公平」を共通ビジョンとする総合的開発プログラムが、アジア開発銀行(ADB)の支援の元、実施されてきました。

現行(2012-2022年)の戦略枠組では、「食品安全の国際ハーモニゼーションと農業の現代化を通じた国際貿易競争力の育成」が農業分野の3本柱の一つとされており、2015年末のASEAN統合以降、GMS地域の緊密な統合が加速するものと予想されています。

このような背景の下、GMS諸国の大学生を招へいし、共同で実験、参観およびディスカッション等に参加していただくことを通じて、今後の地域連携の中核を担う者の育成に資することを目的とする、科学技術体験コースを実施しました。

主たるプログラムは来日(2017年11月5日)、および帰国(同11月11日)の日を除く5日間、農研機構食品研究部門(茨城県つくば市)にて実施しました。参加者はホーチミン市工業大学(3名)、カンボジア王立農業大学(5名)およびラジャマンガラ工科大学(3名)でした。

5日間にわたる連続した実験を毎日行いました。内容は「食品の衛生細菌検査」、「食品細菌の簡易同定」、「抗生物質耐性菌の鑑別」等です。いずれも、それぞれの国内で実施可能であり、かつ実用性が高そうなものを選択しました。

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実験風景

送り出し機関が学生にレポート提出を求めていたせいか、受講者は作業を行うよりも、スマートフォンで記録を残す事に力を入れている感じがあり、最終日に実験内容のレビューを行った際にも、結果の丁寧な観察と実地説明の理解が不十分である印象を受けました(これは日本の大学生も似たようなものです)。

先進的な農業関連研究を行っている、食品研究部門内の輸送・貯蔵関連研究施設と、野菜研究部門の野菜工場の参観を行いました。

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流通保存研究施設の見学
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野菜工場の見学

前者の輸送振動シミュレーターは世界的に見ても珍しい装置であり、後者は内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)『次世代農林水産業創造技術』」の研究施設です。

また農研機構の代表的研究成果と、我が国の農業技術の歴史について展示を行う「食と農の科学館」の参観も行いました。終了アンケートの結果を見る限り、前者はかなりの好評を得たようですが、後者はそれほどのインパクトを与えなかったようです。

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「食と農の科学館」見学

別の日にはキッコーマン野田工場の参観を行い、実施者が予想していた以上の好評を得ました。この他、文化体験の一環として、都内の浅草寺等の見学も行いました。

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「キッコーマン」野田工場見学

最終日に”Food safety and security”に関連するグループ発表会を実施しました。まず同一国の参加者から成るグループが各国事情の解説を行いました。

次に3カ国の参加者から成るグループを4つ作り、「優先的に解決すべき問題は何か、そのためにいかなる解決手法が存在し、いかなる国際連携が可能か」というテーマでディスカッションを行いました。そのグループ発表に対する質問やコメントは極めて活発でした。

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グループ討論における質疑