2017年度 活動レポート 第156号:東京海洋大学

2017年度活動レポート(一般公募コース)第156号

東京海洋大学海外探検隊EASTプログラム2017

東京海洋大学 小松俊明さんからの報告

2017年10月28日から11月4日まで、東京海洋大学海外探検隊が交流するアジア5カ国5大学10名の学生を日本に招へいし、第3回海外探検隊EASTプログラムを実施しました。同プログラムは2015年にさくらサイエンスプログラムに単年度採択されたことをきっかけにスタートし、2016年からは3年間の複数年採択となり、2017年は第3回の実施に至っています。

参加校は以下の通り。参加学生は各大学2名ずつで、合計10名です。
*香港大学(中国)
*台湾大学(台湾)
*チュラロンコン大学(タイ)
*マレーシア国立サバ大学(マレーシア)
*シンガポール国立大学(シンガポール)

海外探検隊プログラムとは、2013年より開始した本学の海外派遣キャリア演習のことであり、現在までにアジア5か国、およびニュージーランドとノルウェーに延べ167名の学生を派遣しています(2017年8月時点)。

本プログラムで交流するパートナー校との交流をさらに深めるために、2014年からアジア5カ国5大学の学生10名を日本に招へいする、いわゆるGo East(東へ行く!)プロジェクトを計画した。幸いにも同構想はさくらサイエンス事業の支援を受けることになり、それによって海外探検隊EASTプログラムが始まりました。

さて、第3回海外探検隊EASTプログラムは、過去2回の流れを汲み、2011年の東日本大震災以後、被災地の第一次産業(水産業・農業・林業等)の復興状況のヒアリング調査をアジアの学生達とともに実施しています。ニュースで見ていたことが、実際に現地に赴くことで身近な現実となり、格段に関心が高まっている様子が見て取れました。アジアの学生達の間には、日本への見方に変化が起きたようです。

実際に被災によって身内を失い、さらに200年続く家業をも失いかけた人物と陸前高田で出会うことができました。老舗醤油メーカーである八木澤商店の河野会長です。震災当時の様子、事業をあきらめざるを得ない瀬戸際まで追い込まれたこと、そして全国からの支援を経て奇跡の復活を遂げたことなど、生々しく迫力のある話に、アジア学生は熱心に話を聞いていました。

写真1
被災した老舗醤油メーカーの復興ストーリーを先代社長から学ぶ

人生はいつ何時、どのような形で終わるのか、誰もわからない。天災の威力と人間の無力さ、一方、絶望から立ち上がる人間の尊厳など、アジアの若者達は多くを学びました。

写真2
日本百景・猊鼻渓は震災直後どうだったかについて、船下りをしながら考えました

陸前高田に残る震災の深い爪痕を見たアジア学生は、次に内陸部に戻り、摺沢にある岩手県立大東高校を訪問し、被災した高校生との交流を行いました。同世代の日本の高校生が今、何を考えているか、都会とは異なる素朴な高校生たちの声に耳を傾けました。ここでも、これまで抱いていた日本のイメージ、日本人のイメージが良い意味で壊されたと、アジアの学生の一人が言っていたことがとても印象的でした。

写真3
被災地の高校生と話をするアジア学生
写真4
被災地の高校生が地元で有名な鹿踊りを披露してくれました

普通の旅行では絶対に体験できない深いところまで日本を考察すること、これも今回被災地へ旅をした目的の一つです。復興を遂げる過程にある等身大の日本人の姿を見て、アジアの学生達は日本人の精神についても深く考えたに違いありません。

さて、海外探検隊EASTプログラムは被災地を訪問するEASTツアーからスタートしましたが、東京に戻ったアジア学生を歓待したのは、これまでアジア5カ国に派遣されたことのある、多くの日本人学生達です。再会を喜ぶ者もいれば、初対面で新しい友情を交わす者もいます。素晴らしい出会いです。

写真5
アジア5カ国に派遣された日本人学生とアジア学生が交流する
写真6
都内のスーパーグローバルハイスクールと交流するアジア5大学の学生達

次に築地市場、防災公園等に訪問し、東日本大震災の影響を東京周辺で考察し、その後、水産商社、(株)東洋冷蔵の清水事務所を訪問しました。清水港や食品加工工場、そして冷蔵施設等を視察しました。震災直後、どのような影響があったかについてもヒアリングしました。日頃、ラボでサイエンスを学ぶ学生が多い中、漁業の現場や製造現場の工程や流通を学ぶことは、大きな収穫になったはずです。

写真7
カツオの加工工場を訪問(静岡県焼津市)

プログラムも後半に入り、最後に房総半島の最南端まで下り、東京海洋大学の研究施設、館山サイエンスステーションを訪問しました。先端的な養殖研究の現場で、アジア学生は多くの質問を研究者にぶつけていました。近い将来、アジア学生と本学の研究現場との間で、新しい共同研究が始まる可能性を感じました。

写真8
館山サイエンスステーションを視察

その後、保田漁港に移動し、その日の宿泊先にチェックインしました。明朝は、早朝から地元の漁船に乗り、定置網漁を視察するゆえ、この日は早めに一日のスケジュールを終えました。

翌朝、まだ真っ暗な夜空を見上げながら、アジアの学生達は午前5時に保田漁港に集まりました。いよいよ、地元の漁師とともに漁船に乗り、定置網漁の視察です。本学から2名の日本人学生も参加しました。定置網漁を授業では学んでいたものの、実際にその現場を見るのは初めてのことでした。百聞は一見に如かずというが、その場にいた誰もが、初めての体験をしました。

写真9
早朝に漁船に乗り、定置網漁を視察
写真10
保田漁港の定置網漁を船上から視察

その日の朝に獲れた地元の魚は、すぐに魚市場に持っていかれました。その一部を私達は朝食で食することもできました。考えてみれば、被災地である岩手県三陸海岸から館山市のある房総半島まで、一つの海岸線でまっすぐ結ばれています。島国ニッポンで起きた東日本大震災の影響と復興の軌跡を、アジアの学生達と一緒に追いかけた海外探検隊EASTプログラムは終了しました。

アジアの学生達は高い関心を示して参加し、皆、最後は大親友になりました。そして再会を誓い、笑顔で帰国しました。