2016年度 活動レポート 第316号:ときの羽根

2016年度活動レポート(一般公募コース)第316号

日本人の叡智~森から海へ~流域の生物多様性保全の考察

ときの羽根代表理事 久田治子さんからの報告

(一社)ときの羽根では、さくらサイエンスプログラムにより2016年11月24日~30日の日程で、中国四川省、湖北省、安徽省、江蘇省、上海から、環境分野の研究者20名(内4名は自主招へい)を招へいし、「日本人の叡智~森から海へ~流域の生物多様性保全の考察」をテーマに、交流プログラムを実施しました。

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G7伊勢志摩サミット会場の志摩観光ホテルを訪問し、各国首脳が美しい英虞湾を眺めた屋上や記念撮影をした絶景スポットに足を運び、青い空と海、白い雲、そして緑の島々の美しい伊勢志摩国立公園の景観を目の当たりにしました。志摩環境事業協業組合・宝門豊氏の設営で特別見学が許可されました。11/29

隣国中国の環境汚染は、越境問題として日本への影響が深刻化しています。本プログラムでは、公害を克服した日本の経験と高度な科学技術力、安全・清潔な日本の社会基盤を紹介し、アジア共通の課題解決に向けて、青少年同士の対話を重視する環境教育交流に、友好的に取り組むことを目的としました。

テーマの趣旨

ときの羽根は、2010年から上海で日中環境活動を続け、COP10、ESDユネスコ世界会議、ミラノ博での日中合同参加を経て、2016年3月には上海崇明島「長江こども環境サミット」を実施しています。

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「中国駐名古屋総領事館」の鄧偉総領事を表敬訪問しました。鄧偉総領事から訪問先の伊勢志摩地区の魅力について詳しい説明がありました。上海、安徽、四川、湖北・江蘇グループで自己紹介と記念撮影。科学技術担当の李頴領事が窓口対応して下さり、総領事館内で1週間のスケジュールと注意事項などオリエンテーションを実施しました。11/25

その後、安徽省にて行われた第2回目のサミットに続いて、今回は、環境分野に携わる研究者ら20名を日本に招き、長江流域環境保全のヒントとなる視察や、シンポジウムを実施することにしました。

日本人の自然への畏敬の念が、環境保護意識の原点であることに加えて、公害を克服し、進化を続ける環境配慮型省エネ技術等を視察、伊勢志摩の美しい景観、歴史を重ねる神宮の森を見学することを通して、持続可能な経済発展と環境保護の両立の考察、意見交換の場となることを期待しました。

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伊勢市内の夕食会場に伊勢市長の鈴木健一氏をお迎えし、悠久の昔より神宮とともにある伊勢の豊かな環境と文化を体感して欲しいとの歓迎の挨拶を頂く。11/27

プログラム概要

日本四大公害発祥地の1つ四日市市では、公害克服の歴史と三菱科学で活性汚泥処理施設、ゴミ分類処理現場を視察しました。

四日市公害と環境未来館では、日本四大公害の映像、公害健康被害者への医療費救済制度、工場の排ガス(硫黄酸化物)総量規制、公害防止設備など、日本の公害問題解決策として、産業と環境両立への過程を学びました。

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四日市市の「三菱化学株式会社四日市事業所」を見学。四日市公害克服の過程と環境保全に向 けた取り組み報告を環境安全部環境グループサブマネージャー徳永英司氏および土山大治総務 部長より受ける。防災服・ヘルメット姿で工場内の汚泥処理施設とエコステーションを視察。11/25
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「四日市公害と環境未来館」を見学。生川貴司館長の挨拶後、中丸寛仁氏の案内で館内を見学。 全国に先駆けて公害健康被害者に対する医療費救済制度の実施や工場の排ガスに含まれる硫 黄酸化物の総量規制、公害防止設備の設置など、日本の公害問題解決と産業と環境の両立への 過程を学ぶ。中国において喫緊の課題である環境問題解決に向けた前例として、活発な質疑や 真剣にメモを取るなど関心を集めた見学でした。11/26

また、水質日本一を誇る宮川上流域を訪ね、市民・産学官連携による境保全活動の現状も学びました。

2016年5月「G7伊勢・志摩サミット」開催地では、生物多様性の宝庫「神宮の森作り200年計画」を視察し、1300年以上継続している20年毎の遷宮循環システムほか、歴史・文化・食・環境を観光資源として賑わうおもてなし文化を体験しました。

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志摩環境事業協業組合を視察。志摩市長の竹内千尋氏の歓迎の挨拶後、会社説明を受ける。1)伊勢志摩の美しい自然とその源である水を守る事業活動と企業理念の紹介/膜事業部長・宝門豊氏(三重大学非常勤講師、博士)。2)膜分離型排水浄化システムの効果検証「魚加工工場事例」案内/部長・西村倫紀氏。下水道関連事業、浄化槽関連事業、廃棄物処理事業への関心が高く、環境にやさしい排水処理システムに注目されました。11/29

また、神宮早朝参拝や、畳敷きの日本家屋で車座になってシンポジウムを実施し、長江6300㎞の上中下流域を俯瞰する地球規模の環境保護意識を育みました。

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6:20ホテルロビーに集合し、全員で内宮を早朝参拝した。日の出前の寒さが厳しい境内を歩きながら五十鈴川の清流と紅葉の美しさに歓声があがりました。1300年続く式年遷宮と生物多様性の宝庫・神宮の森に関する解説に関心が寄せられました。11/28

成果

1週間滞在後半にシンポジウムを組み、顧問の李建華先生(同済大学環境科学興工程学院教授) の進行で、宮川流域ルネッサンス協議会の幹部や、地元環境保護活動の代表者、三重大の中国人留学生も交えて意見交換を行いました。

各自視察体験を科学的視点で分析した結果を発表し、同顧問の梁晋氏(四川省国際科学技術合作協会会長)の通訳や解説を交えて活発な質疑応答がなされました。

帰国後に全員が提出した報告書を日中両国語にまとめました。

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JSTさくらサイエンスプログラム「日本人の叡智~森から海へ~流域の生物多様性保全の考察」プログラム全工程を滞りなく終了。修了認定書を手に記念撮影。中部国際空港に向かう津なぎさ港の高速船乗り場にて。11/29

志摩英虞湾の美景に歓声を上げ、夢中で写真を撮り続けたメンバーたちは、「高度経済成長期に、四日市喘息など深刻な公害問題に直面した日本人は、様々な闘いを経て社会変革を起こしながら忍耐強く課題を解決してきた」そして、「日本人が青空を取り戻した努力と意義を理解し、日本の公害の悲惨な歴史をたどることなく祖国中国の環境保護意識の向上と環境汚染の課題解決に努めたい」との強い決意が綴られていました。

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過去に水質日本一に認定された宮川流域の自然、歴史、文化などの地域遺産の保全と活用を目 指す宮川流域案内人の会の中野喜吉副会長よりエコミュージアムの理念や活動についての講演 後、雨天の中を紅葉が美しい上流域を案内して頂く。大瀧峡キャンプ場にて案内人の会の寺村善 治さん指導の下、インタープリター養成ミニ講座を受講し、中野副会長のガイドで宮川沿いを下り 伊勢市へ。11/27

今回の日本訪問で、自発的に祖国の環境保護に目を向けて意思表示してくれたことが一番の成果ではないでしょうか。

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宿泊先の四日市市ICETT(公益財団法人国際環境技術移転センター)にて講義(*注)と意見交 換会を開催後、李頴領事、李昱堃領事アタッシュ、三重大学の留学生を交えて交流懇親会を開催 した。後半で日本人と中国人が相互に母国の歌曲を披露して交流を深めた。*注:【講義1】三重 大学生物資源学研究科・加治佐隆光教授の「環境配慮型河川流域管理」(三重大学生物資源研 究科・加治佐隆光教授)【講義2】「COP10生物多様性国際自治体会議と長江流域子どもサミット」 (元名古屋市上下水道局長・小林寛司氏)11/26
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「五十鈴塾右王舎」にて午前の部でセミナー実施。発表1:「崇明島での環境教育活動」(上海市崇明区教師修進学校教師・郑耀虎先生)*第1回と第2回「長江こども環境サミット」報告。発表2:「丹江口環境保護活動の成功例(JICAプロジェクト、東京大学共同)」(武漢大学資源環境科学院・王真副教授)。発表後、質疑応答と意見交換を行い、同済大学環境科学興工程学院教授の李建華先生の解説を交えて活発な議論を展開しました。 午後の部で、宮川流域案内人の会の巽幸則会長はじめ会員有志、宮川流域ルネッサンス協議会の世古口幸喜事務局長、伊勢・玉城地域で環境保護活動家の参加を得て、流域が連携して環境保全活動に取り組む必要性や市民参加、行政の役割などについて意見交換を行った。11/28