2015年度 活動レポート 第31号:超大型台風を乗り切った日中連携チーム 綱渡りで来日を実現した感動の物語

さくらサイエンス・ハイスクールプログラム 第31号

超大型台風を乗り切った日中連携チーム
綱渡りで来日を実現した感動の物語

国立研究開発法人科学技術振興機構

中国建国以来最大の台風が直撃

7月11日に上海から来日する予定だったさくらサイエンスプログラム高校生コース第3グループの一行が超大型台風9号の接近で飛行機が飛ばないことが分かり、上海に足止めとなりました。

中国の人々を驚かせた超大型台風は、牙をむいて襲いかかてくるようでした。

来日する高校生は、江西省と安徽省20名の生徒と2名の引率者でした。台風の影響で11日から、上海からのフライトは全便欠航となり、上海の地下鉄も史上初めて全ての運行を中止するなど、かつてない大きな足の乱れとなりました。

上海の浦東空港から出発する高校生を見送りに来ていた江西省科学庁国際交流課熊主任は、直ちに欠航後のことを考えて日本へ行くフライトを手配しました。ところが、17日まで空席がないという状況を聞いて愕然としました。今回の日本訪問は無理ではないかというピンチに立たされました。

欠航の張り紙を上海から送ってきました。この時点で
高校生が日本へ行くことは、ほとんど無理ではないかと
予想していました。

来日する日程をシフトするにしても、夏休みを迎えて混んでいるため、いつフライトを予約できるか分かりません。延期するにしても、改めて日本でのさくらサイエンスプログラム8日間の予定を組み直さなければなりません。しかしこれは、ほぼ不可能な状況です。このピンチをどう切り抜けるか。

さくらサイエンスプログラム推進室、中国科学技術部、科学技術交流中心、江西省科学庁、江西、安徽省の引率者、航空券手配先の日本旅行上海支社の蒋偉民氏を含むスタッフは、電話で連絡を取り合い、日中双方の情報をリアルタイムで交換できる体制を築きました。

手段は電話とSNSの「Wechat」でした。「Wechat」は、中国でよく利用されているSNSで、日本のラインと同じ機能をもつもので、日本でも使用できるアプリです。

1日か2日遅れてもいい。高校生たちの日本訪問を何とか実現できないか。航空会社と旅行社などに対し、日中のスタッフが連絡を取り合いながら日本へ行くフライト確保の交渉を続けました。

その結果、予定より2日遅れの7月13日に、北京から成田行き22名のCA167便を確保できそうだとの情報が入りました。そこでこれを確定した場合の移動手段、宿泊などの交渉と手順を、日中のスタッフが連絡を取り合いながら次々と組んでいきました。

フライトの発券期限は11日午後3時でした。しかし台風の進路は読めないし閉鎖された空港、止まった高速鉄道の再開見込みも立っていませんでした。仮りに再開しても、敢えて冒険して実行していいものか。高校生たちが上海から北京まで移動しても、日本行きのフライトに間に合うかどうか。

日中のスタッフは、頻繁に連絡を取り合い、さまざまな状況を想定して議論を重ねました。行くか止めるか。日中それぞれの立場にあるスタッフの意見は時としてすれ違いの論議になるなど混乱を極めました。

しかし最終的な責任はJSTが負う方針を伝え、JST担当者が22人全員の航空券の発券命令を旅行エージェントに出しました。それは発券制限時間の10分前、7月11日午後2時50分でした。

フライトの予定は確保しましたが、問題は麻痺している交通手段がいつ復旧できるかでした。日本の気象庁から出される台風の進路情報などを参考にしながら、上海の飛行機や新幹線運航再開時間を予想しました。上海の浦東空港にいる江西組と虹橋空港にいる安徽組は、それぞれ交通の利便性や安全性を考えました。江西省と安徽省の引率者の都先生、尤先生は生徒の両親から北京行きの承諾を得ながら、生徒たちが12日夜、北京に到着する交通手段の確保に走りました。

生徒の保護者の理解と多大な協力を得ながら、12日深夜に北京行きの新幹線の確保ができました。そして北京のホテルの確保と予約、駅からホテルまでの足、翌日の空港までのバスの手配など、中国スタッフの懸命な努力で確保にこぎつけました。高校生来日をまとめた中国科学技術部傘下の中国科学技術交流中心日本課の秦洪明課長と担当者の劉暁燕さんには、本当にお世話になりました。こうして実現の手筈が整い、22人の一行は高速鉄道に乗車するグループと、飛行機で移動する二手に分かれて北京に向かい、無事に北京のホテルに投宿し、翌日のフライトで2日遅れながら7月13日夜、成田空港に到着しました。

22人が無事に成田空港に到着した時は、本当にうれしくなってスタッフは
抱き合って喜びを分かち合いました。

出迎えに出ていたさくらサイエンスプログラムスタッフは、一行が空港ロビーに出てくると思わず感激の声をあげ、引率してきた先生たちとも抱き合って喜びました。生徒たちも全員元気で笑顔を振りまき、本当に感激の場面でした。

成田空港から宿舎の青少年オリンピックセンターへ向かう
バスの中での高校生たちです。みんな疲れも見せず元気に
来日の第一夜を迎えました。

こうして遅れて来日した高校生一行も2日遅れで第3グループに合流しました。楽しみにしていた関西での見学はできませんでしたが、そのかわりさくらサイエンスプログラム推進室は東京での特別の予定を組むことにしており、生徒たちにサプライズを提供したいと張り切っています。