2015年度 活動レポート 第32号:首都大学東京理工学研究科 分子物質化学専攻 城丸春夫 教授

特別寄稿 第32号

物理学・化学領域横断型アジアウィンタースクールの開催
城丸春夫

執筆者プロフィール

[氏名]:
城丸 春夫
[所属・役職]:
首都大学東京理工学研究科 分子物質化学専攻教授
 
プログラム
1日目 到着,ガイダンス
2日目 研究室における実習,研究科長と昼食会
3日目 ミニワークショップ
4日目 科学未来館見学ツアー その後は浅草に立ち寄って解散
5日目 研究室における実習
6日目 研究室における実習
7日目 研究室における実習,学長と面会
8日目 研究室における実習
9日目 物理学専攻と分子物質化学専攻による合同シンポジウム
交流会で招聘メンバーの所属機関紹介のプレゼンテーション
10日目 解散。4名は帰国。2名は引き続き首都大における共同研究に参加(2月14日帰国),1名は理研で実験に参加(2月28日帰国)
 

概要

首都大学東京理工学研究科の物理学専攻と分子物質化学専攻は,領域横断型の教育プログラム(理工GP)を推進しています。本事業ではその一環として「物理学・化学領域横断型アジアウィンタースクール」を開催し,インド(インド大学間共同利用加速器センター,インド宇宙科学技術大学院),タイ(チュラロンコン大学),台湾(国立精華大学)から両専攻に7名の学生,大学院生および博士研究員を招聘しました。実質8日間の短い滞在でしたが,ホスト研究室に滞在して研究を行うとともに,セミナーやシンポジウムに参加するなど,集中的に研修活動を行いました。今回のさくらサイエンスプログラムによるご支援に感謝するとともに,関係各機関と今後さらに連携を深め,人的交流を継続していきたいと考えております。

研究室における活動

多くの研究機関を訪問するのではなく,特定の課題に焦点を絞り,研究活動を通じて国際経験を積むことを目的としました。参加者は以下の各分野において交流実績のある派遣元研究者の推薦によって選ばれており,各課題に対して高い関心と,人によっては十分な経験を有していました。同世代の意欲的な学生と共同作業を行うことは双方にとって良い経験になったようで,全参加者が「研究室活動が最も印象に残った」と感想を残しています。また研究活動に加えて,研究室単位で食事会や小旅行を行うなど,本学の学生と活発な交流がありました。理工GPでは学生が研究を通じて国際経験を積むことを強く推奨しています。今回の経験は,まだ海外研究を経験していない学生にとっては特に,今後の在外研究を考える良い契機になりました。国籍,学年が多様な参加者が互いに打ち解けて研究や交流活動を楽しむことができ,研究面に加えて文化的な交流でも大きな成果がありました。

各研究室における研究活動の内容は以下の通りです。

  • 多価イオン衝突実験(博士研究員1名,大学院生1名):高価数のイオンビームを5-10keVのエネルギーでガラス細管に導入し,内壁のチャージアップによるビームの偏向を観測しました。(受け入れ先 物理学専攻原子物理実験研究室,分子物質化学専攻反応物理化学研究室。理化学研究所との共同研究)。
  • イオン蓄積実験(大学院生1名,学部生1名):15keVの炭素クラスター負イオンビームを静電型イオン蓄積リングに周回させ,パルス電場によるビームの制御とパルスレーザーによる再加熱実験を行いました。(受け入れ先 物理学専攻原子物理実験研究室,分子物質化学専攻反応物理化学研究室)
  • チェレンコフ検出器を用いたミューオンの検出とポジトロニウムの寿命測定(学部生2名):宇宙線ミューオンがアクリルや水の中で発生するチェレンコフ光を光電子増倍管で検出し,エネルギー分布と検出率について考察しました。また,電子と陽電子の束縛情態であるポジトロニウムを生成し,崩壊する時のガンマ線の検出によって,崩壊寿命を測定しました。(受け入れ先 物理学専攻高エネルギー実験研究室)
  • 分子の電子構造および化学反応の理論計算(学部生1名):Gaussian09を使った量子化学的方法によって,種々のポリマーの光励起エネルギーとπ共役長の関係や,SN2反応のポテンシャルエネルギー曲面と遷移状態の構造を計算しました。(受け入れ先 分子物質化学専攻理論・計算化学研究室)

研究交流活動

  • ミニワークショップ (1月23日)
    招聘メンバー4名およびホスト研究室の若手メンバー2名による研究紹介
    参加者のバックグラウンドを理解し今後の活動に生かすことが主な目的であり,専門分野が異なり学部生も含まれている聴衆に対して,十分に噛み砕いた説明を依頼しました。それぞれ,良く準備された講演でした。小規模のセミナーでしたが,積極的な質疑応答があり,招聘者同士,招聘者と本学の学生が知り合う良い機会となりました。
  • 物理学専攻と分子物質化学専攻による合同シンポジウム(1月29日)
    今回は1名の招聘メンバー(博士研究員)が招待講演を行いました。講演の場では,学部生メンバーが臆することなく積極的に発言していたことが印象的でした。また3名の学部生,大学院生メンバーがポスター発表および口頭のプレビューを行いました。ポスターの会場ではメンバー全員が活発に議論に参加していました。また交流会において,出身機関と街や自然の魅力が紹介されました。
 

以上の活動は以下のウェブサイトで公開されています。
http://www.comp.tmu.ac.jp/physchem3/SAKURA-TMU/index.html