2015年度 活動レポート 第24号:福井大学工学研究科 桑水流理 准教授

特別寄稿 第24号

福島第一原発事故後の対応状況の説明に活発な質疑応答
福井大学と電力大学・中部電力短大(ベトナム)との原子力人材育成交流プログラム
桑水流 理

執筆者プロフィール

[氏名]:
桑水流 理
[所属・役職]:
工学研究科・准教授
 
さくらサイエンスプログラムの日程および実施内容
1日目 開講式、放射線計測に関する特別講義、文京キャンパス見学、藤島高校との英語による学生交流会、文京キャンパス懇親会
2日目 セーレン株式会社研究開発センター見学、株式会社UACJ福井製造所見学、福井大学との英語による学生交流会
3日目 福井県立恐竜博物館、永平寺見学
4日目 原子力プラントシステムに関する特別講義、敦賀キャンパス見学、福井県原子力環境監視センター見学、敦賀キャンパス懇親会
5日目 若狭湾エネルギー研究センター、関西電力美浜発電所見学
6日目 大阪市立科学館の見学、閉講式
 

1.プログラムの概要

福井大学とベトナムの電力大学および中部電力短大との交流事業として、さくらサイエンスプログラム(SSP)により、10名の参加者(電力大学から講師2名、学部学生5名、中部電力短大から講師3名)に対し、1週間の招聘プログラムを実施した。ベトナムでは日本とロシアそれぞれの原子力発電所の建設計画が進められており、その運営に必要な人材の育成が求められている。電力大学と中部電力短大はベトナム電力公社の傘下で原子力人材育成に力を入れており、電力大学は2014年に、中部電力短大は2015年に本学と学術交流協定を締結している。本学は2014年にベトナム教育訓練省と協定を結び、同省の留学制度による留学生の受け入れ計画を進めている。その一環として、日本に留学を希望する講師と学生を対象に本プログラムを実施した。

原子力システムに関する特別講義の様子

本プログラムは原子力人材育成を主目的とし、特別講義と研究室見学を中心に、学生交流会や企業見学を行った。特別講義としては、放射線計測に関する特別講義と、原子力システムに関する特別講義を行った。文京キャンパスでは、開発中の放射線計測装置や最新の工作機械を見学し、敦賀キャンパス(附属国際原子力工学研究所)でも、最新の材料分析装置等を見学し、本学の研究環境を体感してもらった。福井県立藤島高校との学生交流会では、高校生の課題研究発表を中心に、日越の文化や慣習等についても、英語で情報交換した。本学の学生交流会では、お互いの研究内容を発表し、質疑応答を行ったあと、日越それぞれの伝統舞踊が披露され、交流を深めた。

藤島高校での学生交流会の様子

福井大学での学生交流会の様子

学外企画として関西電力美浜発電所を見学し、福島第一原子力発電所事故後の対応状況についての説明を聞き、活発な質疑応答が行われた。その他、敦賀市の原子力関連施設2か所と福井市の企業2社を訪問し、加速器技術、環境放射線計測技術、民間の製品開発や製造ライン等について学んだ。また、福井県立恐竜博物館および大阪市立科学館を観覧し、最先端の恐竜研究の成果や日本の科学技術の歴史等について知見を広めた。永平寺を訪問した際には、日本の禅の文化について理解を深めた。最終日には修了証を授与し、本プログラムを締めくくった。

2.交流の成果

原子力発電所を初めて見る参加者が多く、発電所見学が最も高い関心を集めていた。また、学生交流会では横の繋がりが生まれ、お互いに英語の必要性を再認識していた。参加者へのアンケートでは、全員が日本にまた来たいと回答しており、一定の成果が見られた。うち一名は、昨年実施した本プログラムの話を聞いたことが、日本に興味を持つ契機となり、今回参加できて嬉しかったと回答した。毎年交流を継続することで、日本を身近に感じ、日本へ留学する意欲を高める効果があることは確実である。また科学館見学や日本文化体験も好評で、日本の科学技術と文化に対する潜在的な関心の高さも伺われた。

若狭湾エネルギー研究センター見学の様子

文京キャンパスでの集合写真

3.受け入れ機関の効果

学生交流会では英語による意思疎通が難しい場面もあったが、英語に対する苦手意識を共有することにより、むしろ積極的になり、頑張って英単語を発する場面が見受けられた。これにより、本学学生の英語に対する自信が少し高まったのではないかと期待する。このような交流体験が今後のモチベーションに繋がることは言うまでもない。また、藤島高校にはスーパーサイエンスハイスクール事業の一環として本プログラムにご協力頂いており、双方の効果的な事業の実施に役立っている。今後もSSPが継続され、近隣の教育機関を含め、本学のグローバル教育システムが整備できるものと期待したい。

4.将来の課題と展望

ベトナムでも経済力と語学力が留学の最大の障壁である。奨学金としては、日本政府奨学金(国費外国人留学生)やベトナム政府奨学金等があるが、日本語試験を課す国費外国人留学生は敷居が高く、ベトナム政府奨学金を取得した学生も欧州やロシアに留学するケースが多い。特にロシアは原子力発電所建設と関連して、ベトナム人留学生を強く支援しており、人気が高い。本学でも英語で実施するカリキュラムを整備しているが、ベトナム教育訓練省との協定に基づく留学生の受け入れには至っていない。本学では、今後もSSP等を活用し、ベトナム等の留学生を支援する予定である。一方、日本語で教育を受けている留学生も恒常的に一定数おり、日本語によるカリキュラムにも根強い需要がある。よってツイニングのように、日本語をベースに現地の大学と日本の大学が連携した留学制度は極めて効果的である。JICA事業等とも連携し、日本の産官学が一体となって、アジア各国の現地教育を日本の大学教育に接続する仕組みづくりが、今後の成功の鍵である。