2015年度 活動レポート 第267号:熊本大学

2015年度活動レポート(一般公募コース)第267号

海洋生物の調査についてベトナムの研究者と共同研究を実施
熊本大学大学院自然科学研究科理学専攻 准教授 小松俊文さんからの報告

5月2日~5月16日の期間で、ベトナムのベトナム地質科学鉱物資源研究所の研究員であるNGUYEN DUC PHONGさん、DINH CONG TIENさんをお迎えして、さくらサイエンスプログラムの共同研究活動プログラムを実施しました。

研究課題である「九州およびベトナム沿岸における貝形虫群集の比較調査」では、将来予想される海水準の上昇に伴う海洋生物の分布域の変化を調べるための基礎データの取得と、江戸時代以降の交易時にバラスト水を介した生物の分布域拡大の可能性などを検討する目的で、天草諸島や長崎県の長崎市周辺および平戸地域で共同調査・研究を実施しました。

本研究は,熊本大学自然科学研究科の提案申請者と沿岸域環境科学教育研究センターの田中源吾特任准教授が、ベトナム人研究者とベトナムで実施してきた共同研究の延長で、この交流計画では長崎・平戸周辺での試料採取とすでに採取済みである天草地域およびベトナム産試料を熊本大学の微化石研究施設と電子顕微鏡などを用いて調査しました。

長崎湾南部での現生オストラコーダの調査。右側の2名が採泥器で底質試料を採取中。
長崎湾南部での現生オストラコーダの調査。右側の2名が採泥器で底質試料を採取中。

国立科学博物館および国立科学博物館分館では、提案申請者と国立科学博物館の研究者が対応し、堤 之恭研究主幹が管理しているLA-ICP-MSを用いた絶対年代の測定や真鍋 真グループ長が管理するMicro CT スキャナーを用いた微化石試料の解析方法などを理解することができたと考えています。

化石クリーニング室でサンドブラスターを用いたベトナム産アンモナイト化石の剖出作業を見学している様子
化石クリーニング室でサンドブラスターを用いたベトナム産アンモナイト化石の剖出作業を見学している様子
つくばの国立科学博物館分館の標本収蔵庫を見学中。右は協力者の重田康成博士(国立科学博物館)
つくばの国立科学博物館分館の標本収蔵庫を見学中。右は協力者の重田康成博士(国立科学博物館)

また、国立科学博物館や御船町恐竜博物館などに保管・展示されている微化石標本の観察やそれらの研究成果の展示方法などを学びました。なお,博物館の展示見学で得られる知識は,将来的にハノイのベトナム地質博物館(Geologic Museum)の展示などに活かされると考えています。

第四紀の貝形虫などを用いた研究は、環境の変遷を明らかにする目的で、日本の地質・古生物・古海洋学分野などで古くから行なわれており、国際的に著名な研究者や高い評価を受けた研究が多数知られています。

私たちのベトナムでの研究の一部も、既に当該分野の国際学術誌に掲載されており、この分野はわが国の伝統的かつ優れた科学技術分野の1つと言えます。さらにこれらの研究に必要不可欠な試料の処理室や分析室、電子顕微鏡などの最先端の機器は、アジアの発展途上国にはまだ十分に整備されていない現状がありました。

本研究課題に関わる調査を実施した際には、ベトナム国内にこの分野の研究者がおらず、整備された微化石処理・分析室や観察および分析機器も無かったため、ベトナム人研究者は試料採取の補助しか担当することができませんでした。

招聘者の所属するVIGMRでは、現在、研究棟の改修が進められており、改修後に日本の研究機関にあるような微化石処理室を立ち上げる計画があるため、この研究機関ではその設備や利用状況に強い関心をもっていました。

そのため、招聘者は、これらの設備や研究体制が充実している熊本大学などへの訪問を予てから強く希望していたという状況があります。

この共同研究では,環境の変化に伴う貝形虫群集の構成変化を数年ごとに調査することも重要であるため、今後の共同研究の継続や再来日が必要と考えています。また、観察や分析機器の立ち上げが早急には出来ないことや当該分野の専門家を日本の大学で育成する必要もあるため、今後もベトナム人研究者の来日や活発な交流が期待できます。

これら、さくらサイエンスプログラムによる今回の交流活動の成果は、本学とベトナム地質科学鉱物資源研究所の今後の学術交流の発展のみならず、両国の友好関係にも大きく貢献するものと確信しています。

本プログラムを実施するにあたり、ご協力いただきました本学の教員、事務職員の皆様ならびにプログラムの成功に多大な貢献をしていただいた本学の大学院生に感謝いたします。また、多大なご支援をいただきました科学技術振興機構のさくらサイエンスプログラムに深く感謝いたします。