2014年度 活動レポート 第7号:富山大学 細谷健一教授

特別寄稿 第7号

ハサヌディン大学(インドネシア)の学生が薬学に関する研修を実施
細谷健一

執筆者プロフィール

[氏名]:
細谷 健一
[所属・役職]:
富山大学教授(大学院医学薬学研究部長・薬学部長)
[略歴]:
1985年3月
城西大学大学院薬学研究科修士課程修了
1992年9月
博士(薬学)(城西大学)
1985年4月
日研化学株式会社研究員
1994年3月
南カリフォルニア大学大学院薬学研究科Postdoctoral fellow
1997年4月
東北大学薬学部教務職員
1999年7月
東北大学大学院薬学研究科助手
2000年4月
東北大学大学院薬学研究科講師
2000年7月
東北大学大学院薬学研究科助教授
2000年10月
富山医科薬科大学薬学部教授
2005年10月
富山大学薬学部教授(統合による)
2006年4月
富山大学大学院医学薬学研究部教授(現在に至る)
2013年10月
富山大学薬学部長(現在に至る)
2013年10月
富山大学大学院医学薬学教育部長(2014年3月まで)
2014年4月
富山大学大学院医学薬学研究部長(現在に至る)
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 富山大学
送出し国・機関 インドネシア共和国・ハサヌディン大学
招へい学生数 10名
招へい教員などの数 1名
実施した期間 2014年10月19日~2014年10月25日
 

1.さくらサイエンスプログラム実施の目的

ハサヌディン大学と本学は大学間交流協定を締結しており,特に大学院医学薬学教育部(薬)では,これまで多くの留学生や研究者を受け入れて学術交流を行っています。
現在進行中のキャンパス・アジア中核拠点支援事業(文部科学省:2010~2014年度)の「高度職業人育成コース」にも,ハサヌディン大学から教育者等を大学院学生として受け入れています。

今回は1週間程度という短期間の滞在でしたが,インドネシアの次世代を担う学生たちに,本学の教育・研究を直に見て肌で感じてもらい,富山地域の伝統ある薬学研究に興味を持ってもらうことを目的としました。

2.実施内容について

次のような日程でプログラムを実施しました。

月 日 時 間 摘 要
10/19 21:25 インドネシア(ジャカルタ)出発
10/20 7:10 日本入国(羽田着)
10:40 富山着
  ・・・・・・・・・・・・・・・
13:30 開会式・オリエンテーション
  薬学研究の概略について(細谷教授)
  (於:民族薬物資料館会議室)
15:30頃~ 和漢医薬学総合研究所民族薬物資料館見学
17:15~ ウェルカム・パーティ
10/21   薬学系研究の講義
10:15(45分程度) *天然物化学(森田教授)(於:森田研究室)
11:15(45分程度) *分子細胞機能学(今中教授)(於:今中研究室)
12:00~14:00 休憩
14:00(45分程度) *がん細胞生物学(櫻井教授)(於:櫻井研究室)
15:00(45分程度) *生体認識化学(友廣准教授)(於:セミナー室5)
16:00(45分程度) *応用薬理学(安東准教授)(於:セミナー室5)
10/22
&
10/23
  グループに分かれ,5研究室において実験
分子細胞機能学,がん細胞生物学,
天然物化学,生体認識化学,応用薬理学
10/24   地元企業&資料館見学
10:00 株式会社廣貫堂&富山県民会館分館金岡邸(薬業資料館)
16:00 アンケート実施・修了式(於:共同研究棟会議室)
10/25 7:10 富山発
10:05 日本出国(羽田発)
15:40 インドネシア着

到着日の午後にはオリエンテーションを行い,計画の概要を説明しました。引き続き,日本における薬学系研究の概要について講義し,母国と日本での研究の相似点・相違点を認識して貰いました。

富山大学は和漢医薬学研究では世界的にも認められ,情報資料が調っていることを確かめて貰うために,和漢医薬学総合研究所の民族薬物資料館を見学しました。世界中の伝統薬物の多さを認識できたようです。

この後,明日からの実習が円滑に進められるよう配慮して,学生を受け入れる研究室の教員及び学生を交えたウェルカム・パーティで親睦を深めました。本学の学生や教職員にとっても,貴重な国際交流の場となりました。

【講義:薬学研究の概略について】

【民族薬物資料館見学】

【ウェルカム・パーティ】
 
 

 

2日目は,一日をかけて薬学系研究について講義を実施し,各分野の内容を理解して貰うようにしました。 3日目から二日間は,学生達の希望する分野の研究室に分かれて実験機器等を使って実験を行いました。学生たちは,自国の大学研究室との違いに戸惑いながらも興味を持って実験に取り組んでいました。実習に当たっては,研究室の学生も積極的に関わって交流を深めました。

【薬学研究分野の講義を受講】

【各研究室に分かれて実習】

5日目の製薬企業見学では,富山市内の和漢薬を取り扱う老舗の製薬企業(株式会社廣貫堂)を訪問し,日本の和漢薬の歴史と工場における厳密な製造・品質管理等の工程について説明を受けました。 学生たちは,オートメーション化された製造ラインと厳密な検査に感心し,薬学研究の奥深さを認識したようです。富山地域の薬学の歴史を感じて貰うために,国内でも稀な薬業資料館(金岡邸)を見学し,薬業全般にわたる多くの資料を目にしました。

大学へ戻ってアンケートを記入し,修了証を交付してさくらサイエンスプログラムを終了しましたが,「ぜひ,日本へ来たい!日本に来て勉強したい!」との声が学生全員から寄せられました。 学生たちにとって次のステップを考える機会となったことを実感しました。加えて,実験等で交流した日本の学生たちにとっても,国際化を考える良い機会となりました。

【工場見学】

【丸薬製造体験】

【薬業資料館見学】

【修了書を手に記念撮影】

3.今後の展望

本学では,①「東西医薬学融合に関わる国際水準の研究を推進する」,②「新しい医薬品の創成,診断・治療法の開発,臨床研究などのトランスレーショナルリサーチを推進する」という目標を中期計画に掲げ,戦略(薬都富山における創薬開発の推進)を展開しています。

大学の将来構想の一翼を担い,今後も世界中から優秀な学生を受け入れたいと強く希望しています。そのためには学生への経済的支援を強化する必要がありますが,大学単独で方策を行うには限りがあります。奨学金をはじめとする国からの支援が必要不可欠です。

また,今回のさくらサイエンスプログラムを実施してみて,外国の学生が日本の教育・研究体制を体験し理解を深める第一歩となることを実感いたしました。これまでの国際交流を発展させるためにも,民間レベルの小さな交流を積み重ねていきたいと考えています。

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

今回,本学は「科学技術交流コース」に応募させていただきました。『さくらサイエンスプログラム』は,外国の学生が日本の教育・研究体制を体験し理解を深める第一歩となります。学生達は自国を出たことのない者が多く,学生達だけでの来日は不安が大きくスケジュールの進行や効果に影響があるのではないかと思います。

幸いにも本学の場合は,本学で博士の学位を取り,研究交流を継続していた教員がコーディネータとなり引率してくれたため,学生達との交流も円滑に進められ,今後に繋がる成果を得ることが出来ました。日本の大学院を修了するなど日本と自国の教育・研究体制を理解する者が引率することが大事なのではないかと思いました。

宗教上の生活習慣も大きく異なりますので,『さくらサイエンスプログラム』では対象国を一国に絞り,実施することが今後に繋がる成果を得られることも実感しています。日本が存在感を増し,東アジアの学術交流を中心となって進めるためにも『さくらサイエンスプログラム』が継続されることを切に望みます。