2014年度 活動レポート 第17号:北九州市立大学国際環境工学部 松本亨教授

特別寄稿 第17号

ウランバートル市の環境改善に関する共同研究推進に向けた交流
松本 亨

執筆者プロフィール

[氏名]:
松本 亨
[所属・役職]:
北九州市立大学国際環境工学部教授
[略歴]:
九州大学大学院修士課程修了。博士(工学)。
(株)野村総合研究所研究員、九州大学大学院工学研究院助手、同助教授、北九州市立大学助教授を経て、2008年より同教授。
2009年より中国・南開大学循環経済創新研究所名誉教授。
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 北九州市立大学
送出し国・機関 モンゴル科学技術大学、モンゴル生命科学大学
招へい学生数 6人
招へい教員などの数 1人
実施した期間 平成26年11月10日~22日
 

1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について

さくらサイエンスプログラム交流事業により、2014年11月10日~22日の日程でモンゴルの2大学(モンゴル科学技術大学、モンゴル生命科学大学)から6人の学生が来日しました。
本学部とモンゴル側2大学とは、2012年より、首都ウランバートル市の大気汚染と廃棄物問題を対象に、共同で現地調査を実施するなど、環境対策の効率性評価に関する共同研究を進めています。

これまでの共同研究を通じた交流は、主に教員同士に留まっていました。今回はモンゴル側大学の学生に対して、北九州市立大学における研究の紹介、共同研究に関するディスカッションだけでなく、日本の中でも高い評価を得ている北九州市の環境対策に関する官民の取り組みを肌で感じてもらうことで、共同研究を遂行する上で重要となるイメージの共有を図ることを目指しました。

2.実施内容について

滞在期間の前半は、日本の環境政策・対策について概略をつかんでもらうことに時間を割きました。
来日した学生は全員理系の学生で、大気汚染のシミュレーション、観測、地理情報システム等を専門にしており、必ずしも環境政策、特に海外の政策に通じているわけではありません。

そこで、まず北九州市環境局に依頼し、日本及び北九州市における大気汚染対策や環境アセスメント制度についてレクチャーを受けました。また、北九州市環境科学研究所では、大気汚染や排水の観測技術・体制ついて視察を行いました。

さらに、アジア展開に熱心な市内の廃棄物の収集運搬・処理業者に依頼し、廃棄物収集・処理施設の見学及びインドネシア等で実施している事業についての説明を受けました。収集運搬・処理業者においては、事務所玄関のウェルカムボードのみならず、廊下やトイレ等の行き先表示や注意書きにもモンゴル語を用意していただき、学生は日本の「おもてなし」文化の一端を垣間見たようです。

来日期間がちょうど大相撲九州場所の時期と重なっていたため、休日には福岡市に行き、大相撲観戦を楽しみました。さらに、モンゴル出身力士との食事会にも参加でき、普段モンゴルにおいてTVで見ていただけの郷土の英雄との交流には大いに満足したようです。

翌週は、環境コンサルタント企業の視察、環境学習関連施設(環境ミュージアム、水環境館)、資源リサイクル事業の集積地である北九州エコタウンの見学を行いました。これらを通じて、北九州市の公害克服から現在の環境対策先進地となる経緯と、そこにおいて官だけでなく民の力も大きく働いていることを学んでもらいました。

また、研究交流会を開催し、3大学(モンゴル科学技術大学、モンゴル生命科学大学、北九州市立大学)から現在実施している研究の紹介を行いました。モンゴルでは、博士の学位を持っていない若い講師が、博士課程に通いながら講師を務めていることが多いのですが、今回招聘した学生も、半数はそのような大学院生で、彼らの発表はレベルの高いものでした。

一方修士課程や学部の学生の発表は初々しいものであり、今回の国際的な活動への参加は大きな刺激になったようです
研修最終日、北九州市立大学国際環境工学部において、「さくらサイエンスプログラム修了証授与式」が行われました。学生達はモンゴルの民族衣装に身を包み、気持ちを引き締めて授与式に臨み、学部長から修了証を受け取りました。

北九州市環境局を訪問
北九州市環境科学研究所を訪問

市内の廃棄物収集運搬・処理事業者(株式会社西原商事)を視察

市内の環境コンサルタント事業者(環境テクノス株式会社)を視察

水環境館を見学(NHK北九州放送局から取材を受けました)

北九州エコタウンを見学

北九州市立大学との研究交流会

3.今後の国際交流について

13日間の滞在期間でしたが、北九州市の官民の高い環境対策や実際の環境管理レベルを体感できたことは、モンゴルの学生に大きなインパクトを与えたようです。
また、研究交流を通じて、双方の学生にとって刺激となり、その後メールのやり取りを続けているようです。また、6人全員が、いずれ日本に留学したいという希望を表明しています。

なお、送り出し機関の1つであるモンゴル科学技術大学の応用科学部とは、以前から相談していた学部間学術交流協定の話が一気に進み、1月末に無事締結となりました。今後、短期・長期の学生の交換、研究者の交流等が一層進むものと期待しています。

モンゴル生命科学大学の教授が1人随行しましたが、その先生はモンゴルの環境専門TV局においてアドバイザー兼レポーターを務めておられ、今回はTV局のカメラマンも同行していました。
さくらサイエンスプログラムによる来日学生の様子とともに、北九州市、北九州市立大学についても取材を行いました。帰国後、それをもとに番組が制作され、モンゴル国内で放映されたようです。今後、様々な形で波及効果が生まれるものと期待しています。

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

さくらサイエンスプログラムの特徴は、機動性の高さにあると考えています。今回の例では、7/18申請書提出、8/12採択内定、11/10訪日という流れで、他の学生招聘プログラムと比べると極めて迅速であるといえると思います。その裏には多くの方々の多大な努力があることと想像いたしますが、この迅速性、機動性の高さは、日本側、送り出し国側双方にとって大きな魅力になっていると思います。

アジア諸国を研究対象、あるいは留学生の供給源と見るライバル国は多く、学生招聘プログラムも多岐にわたります。そのような中で、さくらサイエンスプログラムのような極めて機動性の高い交流事業があることは、日本の学術研究機関で働く者にとっては心強いばかりです。今後とも継続、発展していただけることを期待します。
最後に、交流の機会を与えて頂いたJSTの皆様、見学先の方々に深く感謝申し上げます。

修了証授与式